映画と言えば真っ先にハリウッドを思い浮かべる方も多いかと思われますが、その大いなる繁栄の裏側では観衆を魅了すべく様々な気配りがなされています。今回は映画の本場ハリウッドにて100年もの長い年月をかけて培われてきた、映画の魅力を一段と高める為の細やかな工夫の一部をご紹介します。
Hollywood movies are elaborately created so as to fascinate the audience. I’m going to introduce one of the techniques which have been cultivated to make movies more attractive for over 100 years in Hollywood.
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言われてみれば… 映画世界のあまり知られていない職人技
まずご覧いただきたいのが、こちらロサンゼルスを舞台に繰り広げられる恋愛ミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』(原題: La La Land)からの一場面になります。
この作品ですが、今年度のアカデミー作品賞に最有力と予想されており、インターネット上でもしばしば予告映像を拝見するのですが、どのシーンも大変美しくロマンチックで、普段であればミュージカルと聞くとなんとなく身構えてしまう私でも、LAが舞台だからという点を考慮せずとも、これは素直に観てみたいなと思いました。
こちらはそのうちの一つで、画面中央の朝焼けが美しいロサンゼルスの早朝の一場面になります。
The following picture is clipped from “LA LA LAND”, which is a musical romance movie developed in Los Angeles.
A lot of media predicted that “LA LA LAND” would win the Oscar for the best picture. It includes lots of romantic and beautiful scenes, so I’d like to watch it.
LA was originally a desert, so the annual amount of rainfall isn’t so big even in winter. However, streets in a movie are always wet. Why?
さて、こちらのシーンを見て少し奇妙だとすぐさま感じられた方は、相当ロサンゼルスに詳しい方を除いていらしゃらないのではないでしょうか(私も指摘されるまで全くわかりませんでした)。
この作品はロサンゼルスで撮影されたものだという事は冒頭でも言及したかと思いますが、それにも関わらず実はこの中でロサンゼルスではあまり見られない現象が起きています。
ついつい雲一つない空に地平線上から暁光が仄かに層をなして広がり美しいグラデーションをなしている箇所に目が行ってしまいますが、これは別に珍しい景観ではありません。LAでも市街地を離れた場所では建物がそれほど高くなく、さらに道路が一直線に延びていますので、上空ではなく行く先のはるか彼方より日の光が射すといった状況にはしばしば遭遇します。
では一体何がおかしいのかと言いますと、ずばり道路です。先程まで雨が降っていたかように表面が湿っています。
この地域は元来砂漠地帯であった為、年間を通じて雨量はそれほど多くありません。冬には短い雨季を迎えますが、とりわけ雨天の頻度が高くなるというわけでもなく、日本の日常レベルにようやく肩を並べるくらいのものです。
特に去年などは記録的な干ばつに悩まされていたほど、雨が全くと言っていいほど降らなかったわけですから、LAの道路は昼夜問わず常に乾き切っていた事でしょう。
たまたま撮影前日に奇跡的なタイミングで雨が降って日の出の前に雲の一切が晴れた、というのもあり得なくはないのですが、結論を言ってしまうと、これは撮影前に放水車で水を道路に散布したからです。では一体何の為にそんな事をするのでしょうか。
ライトはただ照らすだけではない。100年の知恵と技術が生んだ光と影の芸術。
映画は写真と同様に、光と影がその芸術の根幹を担っています。つまり各場面の明暗によって、その作品の世界観と情調が決定づけられるわけです。そのため実際の現場でただカメラを回してありのままを撮影するドキュメンタリーとは異なり、観客が自然と引き込まれてしまうような、言わば創造的な世界を構築する必要があります。
乾いた道路であれば、無機質な黒色が光を吸収し暗闇の中にぼんやりと灰色が浮かび上がった状態になりますが、その中では登場人物が景色に溶け込んでしまう(周囲と同化してしまう)場合があります。そうした事態を避けるべく、水面に反射した光をキャストの髪に当てるなどして、薄暗いフレーム内に一点のみでも眩輝きを放つ部分をつくる事で視覚的にメリハリが生まれ、「ナイトタイム」を印象的に仕上げる事ができるのです。
この技法はロマンチックなシーンに多く用いられているそうです。確かに、夜間に光を放ち際立つ車のヘッドライトや信号の明かりのように、全体的に暗くてどんよりとした印象よりも何かしら光が反射されている方が美しく見えますからね。逆に言えば、乾いた道路はホラーシーンなどの不気味な場面の演出に一役かうかもしれません。
また、光は明るさだけではなく質感の創出にも貢献してくれます。これは視覚的に非常に重要な要素であり、無機質な映像に活力を与えてくれるのです。
ハリウッドではビジュアルの最高責任者は監督ではなく、ディレクター・オブ・フォトグラフィー(撮影監督)が担当しています。日本で言うところのカメラさんと照明さんを合わせたような存在でしょうか。
今回の場合ですと単純に濡れた道路がきれいだからという理由だけで水を撒く場合もあるそうですが、根本的には上記で述べたように、撮影監督の方がシーンの一つ一つで視覚に訴える様々な工夫を凝らしているからこそ、私たちは集中を途切れさせる事なく映画の世界に入り込むことができるのです。
映画はチケット代を払って自ら劇場へ赴かない限り、楽しむ事はできません。同じ映像メディア作品としてテレビが挙げられますが、観客に劇場で「テレビ」を提供するわけにはいきません。ですので、製作側は一目見てこれは映画なのだと観客に感じてもらうべく「映画らしい」(シネマティック)映像にとことんこだわります。
これは映画館の競合相手として家庭用テレビが普及した際、映画業界が存亡の危機を感じ対策を講じた事に端を発しています。ご存じの通り映画のアスペクト比(縦横の比率)はテレビと比較してだいぶ横長になっていますが、これも「映画らしく」(テレビとの差異化を図るべく)見せる為に、ハリウッドがその長い歴史の中で育んできた技巧の一つなのです。
ちなみのこのテクニックは基本的に街中の大通りや車が多く行き交う場所での撮影の際によく見られる手法ですが、もちろん相当な費用を要しますし、作品によってはこの見え方ではそぐわない場合もありますから、毎回必ず行っているわけではありません。ですが、こうした細かい箇所に気を配りながら観てみると映画製作がいかに繊細なものであるかを窺い知る事ができます。
たった数秒きりの短いシーンであっても、そこには映画の歴史を通じて代々受け継がれてきた先人たちの知恵と発想の数々が随所に組み込まれています。ストーリーや登場人物に焦点を当てるだけでなく、その後ろに横たわる背景にも注目しながら映画を鑑賞してみると、より一層作品の奥深さを享受する事ができますよ。
みんな慣れていない?雨の日のLAでの運転はご注意を。
この時期はロサンゼルスも雨季(10−2月)の真っ只中ですので、比較的雨の日が続いています。10月あたりから徐々に始まり、12月からより頻度が増え、平均的に2月が一番降ると言われています。
日本の梅雨然り、雨の日が続くと気分もなんとなく沈みますし外出すら億劫になりがちですが、このような雨の効果をいかんなく発揮した神秘的な写真を撮ってみると、雨自体の魅力を再認識できます。
この時期はロス行きの航空券が安くなるこ為、このタイミングを狙って観光でいらっしゃる方も多いかと思われますが、こちらではなかなか傘の入手自体が難しいので、スーツケースには折り畳み傘を入れておく事をおすすめします。
私もこれまで全く天気予報を気にしていなかったのですが、ここのところ確認を怠った為に幾度か悲惨な目に遭ったので、最近は毎日欠かさずニュースをチェックしています。
また雨の日は視界が悪くなるばかりか、ロサンゼルスでは特に事故のリスクが上がりますので、レンタカーなど車を運転される際にはくれぐれもお気をつけください。普段でもありえないくらい車間距離を詰めてきますので(時速100kmを超えていても)、出来ることなら避けるべきか、十分にゆとりを持って運転した方が良さそうです。旅行中にドライブを楽しんでいる時などはつい油断してしまう為、とても危険ですからね。
雨天時は事故が多発して、高速道路が機能しないことが多いので天気予報と地図情報は常に確認しておいた方が賢明ですよ。
またこの時期はただでさえ気温が低いのですが、そこへさらに雨が加わるとすこぶる寒さを感じます。特に夜は冗談抜きで冷え込みますので、防寒を意識した服装(日本の冬季の格好で大丈夫です)で渡航された方が良いです。
ちなみに公開が待ち遠しい『ララランド』ですが、日本上陸は来月2月24日を予定(現時点)しているようです。気になる方はぜひ劇場まで足を運んで、映画本来の魅力を存分に味わってみてください!間近に迫るアカデミー賞の発表も含め、新年が明けたばかりですが、1月から早速映画業界は騒がしくなりそうですね。