第89回アカデミー賞授賞式も閉幕し、約一週間に及ぶ撤収作業の末にようやく本来の姿を取り戻したハリウッドですが、その栄光を見事に勝ち取った作品や俳優たちはいまだ映画ファンの関心を集めています。今回は当日の早朝に垣間見た現地の厳戒態勢に始まり、議論を呼んだ授賞式のラストシーンの真相に至るまで、少し遅ればせながらアカデミー賞を現地の写真で振り返ります。
Hollywood returned to the usual appearance after the 89th Academy Awards ceremony. I couldn’t watch all of it in real time, but I really enjoyed knowing the results and what happened in the ceremony.
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いつもと違う!張り詰めた緊張感が漂うハリウッド
先日の記事でも言及しましたが、アカデミー賞授賞式が催された日の午後にUCLAでの映画撮影を控えていた私は、少しでも当日の雰囲気を味わうべく、まだ夜が明けて間もない早朝にハリウッドを訪れました。
早朝六時の時点で既に、ハリウッド通りは授賞式の会場より何区画も隔てた場所から交通が遮断されており、歩道を分離すべく設置されたフェンスが物々しく立ち並ぶ姿に、有無をも言わせぬような絶対的な圧力を感じました。
ハリウッドで頻繁に開催されている映画のプレミア然り、こちらの通りが何かしらのイベントで閉鎖されるのは日常茶飯事なのですが、今回はそういった普段から見慣れた光景とは段違いの厳重な警備態勢が敷かれていました。まだ辺りが薄暗く人通りも少ない中で、フェンス外側の歩道を通行しているだけでも、なんとなく付近の警備員さんに監視されているような緊迫感を覚えました(気のせいかもしれませんが)。
明け方の冷え切った空気と関係者の方々から伝わる張り詰めた緊張感が混ざり合っては、身の引き締まるような独特な空間を生み出していました。
夥しく連なるフェンスが車道への侵入を完全に妨げていた為、ハリウッドとハイランドの交差点では隣の角に移動するのでさえ大きく迂回をしなければならなくなっていました。鳥さんが上空を渡ってはいとも簡単に道路を横断しており、私の背中の羽があったら良いのになと思いました。
交差点から授賞式会場のドルビーシアター前までは、地面に敷かれたレッドカーペットに沿うようにして細長く豪華なテントが設置されており、いつもの観光地として活気あるハリウッドとはまた雰囲気の違う厳かな空間を創出していました。
私も一応は役者の端くれですので、いつかこのような大きな舞台に立ちたいという壮大な夢を抱きながら、これからも日々地道に役者活動に勤しんでゆく次第です。
I visited Hollywood before going to UCLA for filming on the day of the 89th Academy Awards ceremony.
Hollywood Boulevard was even more strictly guarded than film premiere events. I felt like I was being watched over by security officers, though I was just walking outside the fences.
I wish I could be invited to such a big ceremony someday. I’m going to make efforts to make it come true.
待ちに待った結果発表、気になるララランドは…?
アカデミー賞授賞式もついに終盤に差し掛かった夜の九時前、ようやく撮影を終えた私は空腹を満たすべく大好物のフォー屋(米粉を使用したベトナムの麺料理)へ足を運びました。
長時間にわたる撮影で疲弊してアカデミー賞の事などすっかり忘れていた為、特に期待などもしていなかったのですが、なんと幸運にもフォー屋さんの店内に設置されたテレビでアカデミー賞授賞式が放映されており、なんとか最後の部分だけリアルタイムで見る事に成功したのです。しかも正にあの話題を博したBest Picture(作品賞)発表の瞬間でした。
店内はフォー目当てのお客さんばかりでテレビに注意を払っている方はあまりいらっしゃらなかったのですが、私たちはと言うと周囲の賑やかな会話をすり抜け辛うじて聞こえてくる微かな音声に耳をそばだてながら、静かにその行く末を見守っていました。
私の一押しだった「LA LA LAND」(ララランド)が作品賞に選ばれず少々落胆はしたものの、短時間ながら少しでも本場の雰囲気が味わえたので良かったです。
そんなこんなで作品賞を除くほぼ全ての発表を見逃してしまった私は、後日そそくさとインターネットを駆使して結果を確認しました。惜しくも作品賞を逃したララランドでしたが、なんと今年度では最多の6部門(監督/主演女優/作曲/歌曲/美術/撮影)に渡って受賞を成し遂げられていたので、ほっとすると同時にとても嬉しかったです。
そして今回見事に作品賞に選ばれた「Moonlight」(ムーンライト)はある若き黒人男性の生涯を三つの時期(幼少期/思春期/大人になってから)に分け、それぞれの段階で直面する身体的または精神的虐待などといった彼のアイデンティティーや性に起因する様々な困難を描写した作品です。ムーンライトはララランドに次いで、3部門(脚色/作品/助演男優)での受賞を果たしました。
それにしても驚いた事に、ララランドの興行成績が145.7万ドルであるのに対してムーンライトは約1/6の25.4万ドル(執筆時点)だそうで、素晴らしい内容ながらあまり日の目を見れていなかった作品なのだろうなと思います。
ちなみにムーンライトに出演されている役者さんが黒人の方ばかりなのですが、そうした黒人キャストが大多数を占める映画が作品賞を獲得した事は初めてなのだそうです。さらに今年のアカデミー賞では黒人の受賞者が歴代最多を記録したようで、ここ最近まで取り沙汰されていたアカデミー賞における人種問題も大きな転換期を迎えたと言って良いかもしれません。
しかし、一方でラティーノやアジア人など他の人種の役者は受賞どころか映画界で活躍の機会すら少ない状況にある為、いまだに方々で批判の声が上がっているのが実情です。いつか私たちも対な扱いとまでは行かずとも、より多くのチャンスが巡ってくるようになる事を祈るばかりです。
そしてアニメ作品では、残念ながらジブリが初めて海外と共同で製作した「The Red Turtle」(レッドタートル)は受賞を逃してしまったようで、その代わりに「Zootopia」(ズートピア)が選ばれました。やはりディズニーアニメの力は強いですね。
そして物議を醸した作品賞、その舞台裏とは
おそらく多くの方が翌日のニュースなどで、あの作品賞発表の際の悲劇的な間違いをご覧になられたかと思います。どうやらいくつかの要因が絡んでいるようですが、大まかな事の成り行きとしては、今回作品賞の発表を担当した映画監督で俳優のWarren Beatty(ウォーレン・ベイティ)さんと女優のFaye Dunaway(フェイ・ダナウェイ)さんに本来読み上げられるべきであった作品賞用ではない誤った封筒が手渡されてしまい、ベイティがそれを見て不審に思ったものの、ダナウェイさんに見せたところ彼女がそれを読み上げてしまい、あのような惨事になってしまったそうです。
そもそもこの受賞対象が記載されたカードの入った封筒ですが、実は何かあった時の予備用に舞台の両側に1セットずつ用意されているそうで、今回誤って取り上げられたものは既に発表した主演女優賞の予備用封筒だったようです。ベイティ氏が最初にカードを見ておかしいと感じたのも、そこに「Emma Stone」(エマ・ストーン;ララランドで主演を務めた女優)と印字されていたからとの事でした。
また今回からこの封筒の色をアカデミー賞に見合った色合いに変更したそうで、従来の金色の背景に黒文字という組み合わせから赤色の背景に金文字という新しいデザインになった為、それにより文字が読みづらくなっていたかもしれないという考察もありました。おそらく様々な不運が重なってしまったのでしょうね。
それにしても、ララランドのプロデューサーたちの冷静で機知に富んだ対応には本当に脱帽です。あれが感情的になりやすい私であったならば、おそらくぶすっとした表情のまま無言で壇上から降りていたでしょうにと、彼らは間違いが発覚するや否や、実際の受賞作はムーンライトである事を自らアナウンスしたりさらなる混乱を招かぬよう本物のカードをカメラの前に示したりと非常に寛容で大人な対処をされていて、これが一流の人間のあるべき態度なのだなと思い知らされました。
ちなみにその事件が発生した際に観客席にいたセレブたちの表情を捉えた写真をインターネット上で見かけたのですが、皆さんやはり大変驚かれた表情を見せていたので、テレビの前の視聴者のみならず会場でも大変などよめきが起こったのだろうと推測されます。その場にいなかった多くのセレブたちもツイッターでこの件について大々的に非難しており、世界的にも大きな波紋を呼んでしまった事が窺えました。
This was literally me when they announced La La Land and then Moonlight really won pic.twitter.com/9ztFCH8ZNG
— Matthew A. Cherry (@MatthewACherry) 2017年2月27日
The false announcement of Best Picture made a lot of people all over the world surprised. It is thought to have been caused by some factors.
By the way, I can’t help admiring LA LA LAND producer Jordan Horowitz’s attitude. If I were him, I would have had a frown on my face and stepped down from the stage.
On the other hand, there are also criticisms of his action. Some people think it was rude that he snatched the right card from a presenter. However, I think his behavior prevented the tragedy from getting more serious, so I feel like I want to praise him.
授賞式をあえて欠席、外国語映画賞を受賞した監督の思い
この作品賞発表の件ばかりが注目しまいがちですが、それよりも目を向けていただきたいのは今回のアカデミー賞で外国語映画賞を獲得されたイラン人監督のAsghar Farhadi(アスガル・ファルハーディー)氏です。彼は自身が監督を務めた「セールスマン」で今回で二回目となる受賞を果たしたのですが、授賞式の当日彼の姿は会場のどこにもありませんでした。それと言うのも、彼は今回授賞式をボイコットしたのです。
今年に入ってすぐアメリカの新大統領ドナルド・トランプ氏がイスラム教徒が大多数を占める国々出身の人々の入国を禁じた事により、アスガル氏もまた一時的に入国を拒否されました。その後裁判で例外として入国が認められたものの、結局彼は授賞式をあえて欠席し、当日は代理人が彼のコメントを読み上げる事となりました。コメントの中で彼は、この欠席は国民への敬意に帰するものであるとし、この入国禁止令を非人道的な法であるとして痛烈に批判されたそうです。
なお、彼だけでなく授賞式の総合司会者を務めたアメリカの有名コメディアン、Jimmy Kimmel(ジミー・キンメル)も式の開幕直後からトランプ氏を皮肉るなど、今回のアカデミー賞授賞式は業界人の政権に対する不満が吐露された場面でもありました。
以外と知らない解体現場。アカデミー賞後のハリウッド
最後に、こちらはアカデミー賞が終わった直後のハリウッドになります。
跡形もなく全てが撤収されるまでには約一週間を要しましたが、広範囲にわたって設置されたフェンスや授賞式会場前の大規模な仮設テントが瞬く間に片づけられていく様子を見て、作業員の方々の熟練した職人技を感じました。当日テント内もしくは会場内に設置されていたと思われるオスカー像の巨大なレプリカが野ざらしになっており、立派に飾られていたであろうに一夜過ぎて今やトラックの積み荷の一部となってしまうなんて、なんたる儚い役割だろうと憐れみを感じました。
今回は結局のところ後から受賞結果を確認するという状況にはなってしまいましたが、全般的に見ますと身近で進む大規模な準備を目撃したり、自分が鑑賞した作品が見事に受賞を果たしたりと、去年までと比較して断然アカデミー賞をより近くで体感する事ができたので、関心が逸れる事もなく最後まで大いに興奮して楽しめたように思います。まだまだ先ですが、既に来年の授賞式が待ち遠しいです。
A big replica of an Oscar statuette was left outside. It seemed to have been decorated and shining during the ceremony, so I took pity on it.
I felt the 89th Academy Awards ceremony was the closest one that I have ever had an interest in, though I finally searched for almost all the information. I’m looking forward to watching next ceremony!